川のテラスコート

3人の子供と父で暮らしています。子供が学校行っている時はトライアスロンのトレーニングしたり、投資したり、友人と食事したり読書したり。

【読書感想】 冬の光-篠田節子著 人生は理屈ではない生々しさがある

人間の業を描く篠田節子

 

 

フェリーから転落死した父親の最後の行動をなぞる次女からの視点と、それを補う生前の父親の行動描写で物語を補完していく。

 

学生運動にのめり込んだ学生時代から一転社会の中で出世を目標に突き進む中で出会う学生時代の女性同志。

彼女は当時の青臭い理想を捨てず、社会の主に女性への偏見に対し戦い、そのまっすぐな性格からの攻撃性と理想主義から周囲の人間との軋轢を生む。

そんな彼女に惹かれる部分と辟易する感情が交差しながらも、人生の中で幾度となく絡み合っていく。

 

彼女との関係により、妻を裏切り家族とも関係がおかしくなる。

 

出世レースからははずれ、親の介護、東日本大震災などを通し、自分自身を見失う中で四国のお遍路に向かいその帰路での転落死。

 

単なる家族の物語だけではなく、著者らしい宗教描写も他の作家では太刀打ちできない切り口。

信仰という名の元に商業活動にいそしむ社会を皮肉り、お遍路という舞台を通して人々の信仰や宗教との距離感を描く。

 

他の作品のようにただただ圧倒される重厚感を持った作品ではないが、登場人物誰もが違和感なく物語に鎮座し、人々の日常と葛藤をまぎれもなく読み手に伝える丁寧な物語。

 

篠田節子作品を初めて手掛ける人よりも、何作品が読んだことある人の方がこの物語のすばらしさが分かると思う。

 

 

冬の光

冬の光