【読書感想】 永い言い訳 西川美和著 ー 感情の闇と矛盾を抱えた人間を描く素晴らしい作品
妻をバス事故でなくした夫は、一切悲しみを感じる事はなかった。
しかし同じ状況の家族と過ごすことによって、心を取り戻していく物語。
ジンワリと、でも心に沁み込み、表面的な人物描写ではない素晴らしい作品だった。
主人公は一度離れた心が妻の死によっても悲しめないという人間の心の嫌な部分を正直に描き、その後の他人との触れないの中で今まで得ることになかった庇護者という立場から妻との関わりあいの欠けた部分に気が付いていく。
生きていた時よりも亡くなってその存在が大きくなる。
どの登場人物も通り一遍ではなく、重要な役割を持っている。
一直線に心を取り戻せるわけではなく、密接に付き合ったがためにお互いを傷つけてします過程など、これも人間の一部分と迫って来る。
家族、愛情、周囲の人間、時間などの大切さを伝えるだけでなく、決して派手ではないのに現実の人生の生々しさが伝わる。
初読みの作家だけどとても良かった。
なんで今まで知らなかったのか。
まだまだ知らない素晴らしい文章を書く人が沢山いるものだな。