「読書感想」【砂上】桜木紫乃著 書評
北海道に住む離婚経験者の独身女性。
いつか作家になる夢を抱きながら、現実はビストロ勤務と離婚した夫からの慰謝料でギリギリの生活を送る毎日。
そんな彼女の目の前に女性編集者が現れ、彼女の人生そのものを物語として描いていくことになる。
彼女の人生とは、15の時に生んだ子供を自分の子供として育てる母との関係を見つめなおすことになる。
著者らしい、北海道の女性の内面を描く物語であり、人間関係の描き方もいつもの通り。
小説を描くことで自分が変わっていくというスタイルの中で、現実と小説が重なりあった構成であるがゆえに、ちょっと話としては伝わりにくい面も。
あと登場人物が物語とはいえ、極端すぎる点が現実感を遠くしている。
「読書感想」【盤上の向日葵】柚月裕子著 書評初代菊水月作の名駒
タイトル戦に挑む異色の棋士に、殺人事件の関与が疑われ捜査をしていることから物語は始まる。
遺体と一緒に土の中から見つかった初代菊水月作の高価な将棋の駒の持ち主を探す過程で、過去に遡って幸せとは言えない人生を過ごした棋士の人生を追いかけていく。
柚月裕子らしい、丁寧な下調べを感じさせる将棋の世界の描き方は見事。
そして、主人公に関わる人物の関わり方や、刑事の描写も物語に入り込ませる筆力はさすが。
ただ、ラストに近づくにつれて、いつものような裏切りはなく、予想通りの展開で終わってしまうので…と不安を抱かせ、小さな展開はあるものの、ラストは力不足。
勿体ない。
中盤までの先の見えない展開で期待を上げている点がある点は差し引いても、終わりにかけての展開が弱い。
悪くはないけど、著者の作品としてはもう少し力強さが欲しかった。